宇宙論は、ある部分では観測と理論の境界があいまいとなる方向に進展している。観測的宇宙論という言葉はまさにこの事実を端的に示している。 この言葉は観測と理論という観点からの分類ではなく、観測事実をもとにして宇宙論を展開するボトムアップ的な手法に基づく研究を指すものであり、それさえ満たしていれば観測であろうと理論であろうとこの範疇に入る。 実際、観測的宇宙論の研究では、理論家が観測を行ったり、観測家が詳細な理論的解析をしたりすることは別に珍しくない。
何か新しい観測を行いたい場合は、自分で望遠鏡や検出器のかなりの部分を製作することが不可欠である。 したがって、最初はガリレオのように、理論、観測、機器開発の3業種は縮退していたはずである。 この事実は今でも本質的に変わってはいない。 しかし、資本主義の流れと同じく、効率化は分業化を促進し、その結果、この3つが異なるグループの人々に役割分担される方向に進むこともまた必然である。 それぞれの業種は互いにそれなりのノウハウを発展・蓄積させるために、ある人が別の業種に進出するのは容易ではなくなる。 かくして、研究者は、理論屋、観測屋(通常の物理では実験屋)、機器開発屋というラベルで大まかに分類されることになる。 観測機器が比較的小さい場合には、理論屋以外の2つは事実上縮退している。 しかし、装置の大型化につれて、実験・観測屋と機器開発屋の間にはさらなる分離が始まる。 粒子加速器、天文衛星、10m級望遠鏡、等に関しては、それらのハードウェアを実際に完成させた人が、その後の実験・観測の主ユーザーというわけではない。 必然的に、完成した機器が、その開発に直接携わらなかった他の業種(今の場合は実験観測屋)にも使いこなせるような、User
Friendly な Interfaceが整備されることが要請される。 当然、この恩恵は、理論屋もまた同時に享受できる。その結果、理論屋でも大望遠鏡を用いて観測を行うことが(再び)可能になったのである。
私は宇宙論におけるこのような、研究形態の``退化''は、専門化の著しい物理科学においては、極めてまれかつ健全な方向であると考えているし、観測的宇宙論研究の魅力を支える原動力となっているものと理解している。
我々の研究グループは、2名のスタッフに加えて現在4名の大学院生と1名の学術振興会研究員からなり、 いくつかのテーマに関する定期的なセミナーを行いつつ研究を進めている。 また学内外との共同研究も積極的に行っており、現在進行中のものだけでも、都立大学、東北大学、京都大学、広島大学、名古屋大学、国立天文台、大分高専、プリンストン大学、パリ天体物理研究所、上海天文台の研究者との間で個人レベルで複数の共同研究が行われている。 また、日米共同観測プロジェクトであるスローンデジタルスカイサーベイの日本側のメンバーとして、今後さらに広い共同研究を行っていく予定である。
宇宙のダークマターと天体の空間分布は必ずしも同一である必然性はなく、その違いはバイアスと称されている。 このバイアスを理解し定式化することは、観測的宇宙論における最も本質的な問題である。 我々は、最近 ダークマターハローに対する物理的なバイアスモデルを初めて定式化し、現在それをさらに精密化するとともに、ジーナス統計に応用し宇宙の大構造のトポロジーを定量化することを試みている。
