宇宙は、微視的スケールから巨視的スケールにわたる多くの物理過程が複雑に絡まりあった物理系であり、具体的な研究テーマは多岐にわたっている。 しかしそれらの共通のゴールは、宇宙の誕生から現在、さらには未来に至る進化史を物理学によって記述することである。 そのためには、常に学際的かつ分野横断的な活動が本質的である。我々は、ビッグバン宇宙国際研究センターやカブリ数物連携宇宙連携機構はもちろん、 国内外の他研究機関とも積極的に共同研究を実行しており、常に開かれた研究室を目指している。 現在我々が行っている中心的課題は、宇宙のダークエネルギーと太陽系外惑星の2 つである。これらについて簡単に説明を加えておこう。 1916 年のアインシュタインによる一般相対論の構築によって始まった自然科学としての宇宙論は、ハッブルによる宇宙膨張の発見(1929 年)、 ガモフによるビッグバン理論の提案(1946 年)、宇宙マイクロ波背景放射の発見(1965 年) を通じて、 理論と観測の双方からの進展を受け現在の標準宇宙論に至る。多くの観測データを組合わせることで、宇宙の全エネルギー密度の3/4 がダークエネルギー、 1/5 がダークマター、残りの約4 パーセントが通常の元素、という結論が得られている。これが宇宙の「標準モデル」である。 しかしながら宇宙の主成分の正体が全く理解されていないという驚くべき事実は、宇宙・素粒子物理学のみならず、 さらにより広く21 世紀科学に対して根源的な謎を突きつけている。第2 の地球は存在するか。荒唐無稽にも聞こえかねないこの疑問に対して、 現在の天文学は確実に科学的に迫りつつある。1995 年の初発見以来、太陽系外惑星はすでに500 個以上が発見されている。 その初期に検出された系外惑星のほとんどは木星型(ガス)惑星だったが、2009 年3 月に打ち上げられたケプラー衛星を始めとする観測手段の進歩で、 地球程度の質量を持つ惑星の発見も検出されるようになった。とすればそれら遠方の地球型惑星に生命の兆候を以下にして見出すか。 まさに「第2 の地球は存在するか」という問いに答える日が現実のものとなりつつある。 これは、物理学のみならず、天文学、地球惑星学、生物学などを総動員して取り組むべき、まさに理学部横断的な研究テーマである。 我々はこのような状況を踏まえつつ、すばる望遠鏡による広視野深宇宙探査国際共同研究を牽引し、 さらには太陽系外惑星探査の新たな地平を切り開く研究を展開しつつある。具体的には、ダークエネルギーの状態方程式の決定、 ダークマター分布の重力進化と銀河のクラスタリング統計、ミッシングバリオンの起源と観測的検証、 ロシター効果による主星と系外惑星の自転・公転軸のずれの検出、 地球型惑星系の反射光を用いた表面分布の再構築とバイオマーカーの検出などを研究しつつある。 さらに既存の枠にとらわれない独創的なテーマの開拓をも目指しており、宇宙マイクロ波背景放射の偏光観測による背景重力波の検出や、 重力波観測を用いた重力理論の検証など、次世代宇宙論を担う新たな研究テーマにも取り組んでいる。