森脇 可奈

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研究内容

1. 機械学習による大規模構造データ処理

宇宙大規模構造(LSS)は、宇宙論や銀河進化における重要なプローブとなります。私たちの注目している新しい観測手法である輝線強度マッピング(LIM)では、従来の観測手法に比べてより広い領域や遠方におけるLSSを探査することができます。しかし、得られるマップには大きなノイズが混入し、これらはデータを解析をする上で系統誤差の原因となります。Moriwaki et al. (2020) では、輝線強度マップから注目する赤方偏移の情報のみを取り出すために畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を用いることを提案しました。このとき、敵対的生成ネットワーク(GAN)と呼ばれるネットワークを採用することで 高い精度でシグナル分布を再現できることがわかりました。以下の動画では模擬観測データに対してGANを適用した場合の一例が示されています。

GANが輝線マッピング観測データからのシグナル抽出を学習する様子。

GANを使ったノイズ除去の手法は、LIM観測で得られる三次元データに直接適用することも可能です。この場合、輝線の静止波長に関連する物理的な情報を利用してネットワークを構築することで、観測器のノイズがあるような現実的な条件下でも十分高い精度でLSSシグナルのみを抽出できることがわかりました(Moriwaki & Yoshida 2021)。

近年、天文・宇宙物理の様々な分野で機械学習を用いたデータ解析手法の研究がなされてきています。こうした研究においては、機械学習モデルがどのようにして処理を行なっているのか、その出力にどのくらいの不定性があるのかなどを明らかにすることが今後重要になると考えられます。

2. 宇宙再電離

宇宙背景放射や遠方クエーサーの観測から、赤方偏移 6 - 10 において宇宙再電離と呼ばれる銀河間ガス(IGM)の電離現象が起きたことが知られています。この現象を探るにあたって重要となるのが、中性水素原子から放出される波長21cmの輝線の観測です。SKA 干渉計などの将来の望遠鏡では宇宙再電離期における21cm線シグナルの初検出が期待されています。しかし、こうした観測では大きな前景放射が深刻な課題となります。

前景放射の寄与を取り除いて宇宙再電離シグナルだけを取り出す手法の一つが、相互相関を用いたものです。この手法では、銀河などの大規模構造トレーサーと21cm線観測データを組み合わせることでノイズの寄与を抑えることができます。Moriwaki et al. (2019) では、宇宙論的シミュレーションを用いて相互相関シグナルを予測し、酸素輝線で明るく光るような遠方銀河を用いることで宇宙再電離がいつ始まったを探ることができることがわかりました。こうした輝線銀河の観測には、LSTなどの大型望遠鏡などが活躍すると考えられます。

3. 宇宙早期の銀河形成

近年のALMA望遠鏡による観測では、遠赤外輝線を捉えることでz = 9 に及ぶ遠方銀河の内部構造や力学構造などを調べることが可能になってきています。2021年度末に打ち上げられたJWSTでは、可視光輝線を用いてより詳細・相補的な情報が得られると考えられます。Moriwaki et al. (2018) では、宇宙論的なシミュレーションを用いて、遠方輝線銀河の統計的な特性や、個々の銀河の内部構造を調べています。