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発表者 : 林中貴宏
時間 : 16:30 -
場所 : 4号館6階1624
Title : マグネターからの磁気双極子放射への量子論的補正
Abstract : 
 強い磁場を帯びた中性子星であるマグネターは、これまでの観測によって10^13 Gaussを超える磁場を持つことが観測的に示唆されている。中性子星においては、自転軸と磁軸(磁気双極子の向き)がずれている場合、多重極展開の中の、磁気双極子放射によるエネルギー放射が優勢になる。磁気双極子放射によって、中性子星のspin downが引き起こされるので、中性子星からのパルス周期Pとその時間変化/dot Pを測れば、磁場を推定することができる。
 一方で、量子電磁気学(QED)の効果が顕著になる典型的な電磁場のスケールはm_e^2/e(自然単位系) = 2×10^13 Gauss (磁場) = 1×10^12 V/m (電場) で与えられる(m_eとeは電子質量と電荷)ので、これまでの観測で得られた磁場の値は、マグネターからの放射についても量子論的補正を考えなければならないことを示している。特に、磁気双極子放射への補正は、観測量であるspin down rate (更には、マグネター磁場の推定値そのもの)にも影響を与え得るので、これを計算することは重要である。このような重要性にもかかわらず、磁気双極子放射への量子論的補正の先行研究は見当たらなかったので、今回、我々は摂動論的な領域でこの補正を計算した。
 QED補正は、電子・陽電子の対生成・対消滅が光子の伝播や光子同士の散乱に与える影響として計算することができる。電磁場の変化が時間的にも空間的にも非常にゆっくりであるような場合には、定常な電磁場に対するQED補正を考えれば十分なので、これを表現する有効Lagrangian (Euler and Heisenberg, Z. Phys. 98 (1936) 714, Schwinger Phys. Rev. 82 (1951) 664)を用いて解析を行った。
 計算の結果、磁気双極子放射への補正公式を得ることができ、補正項は(B/B_c)^2(B_c = m_e^2/e) でスケールし、係数は小スケールでの磁場の配位に依存する(ただし、O(1)程度以下)ことがわかったので、講演にて詳細を紹介する。
 一方で、Euler-Heisenberg Lagrangianはフルオーダーの補正を表現できるので、B>>B_cとなるような強場極限における展開も可能であり、この領域における補正は結合定数のrunningに吸収される(Dunne, arXiv: hep-th/0406216v1)ので、補正は小さくなり、古典論の場合に近づいていくことが分かる。この事についても簡単に紹介する。


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